なぜ木漏れ日は涼しいのか~フラクタルが作る木陰の秘密

2013-08-24

シータ

 

こんにちは!暑いですね。暑いときには木漏れ日のある木陰で一休みしていると、涼しくて快適に感じられますね。同じ影の下でも、木陰の方が屋根のある休憩所などよりも涼しく感じられることも多いかと思います。これはいくつか理由が考えられます[1]が、その一つに「フラクタル」の構造があるのです。フラクタルというのは名前だけは聞いたことがある方も多いでしょう。そこで、今回はこの「フラクタル」の秘密と、それがどうやって木陰を涼しくしているのかについて見ていくことにします。

 

「フラクタル」というのは「大きさを変えても、同じ形に見える図形」のことです。こんな風に説明されても何のことか分からないでしょうから、例を見ることにしましょう。下の写真を見てください。(「The Black Swan」より引用)

 

地面フラクタル1

 

これは何に見えますか?「え、地面にカメラのキャップが置いてあるだけじゃないの?」と思う方がほとんどでしょう。さて、ところが実は・・・

 

 

地面フラクタル2

 

 

これはカメラのキャップのような小さなものではなくて、人間と同じぐらいの大きさのあるものだったのです!周りの「地面」だと思ったものは、数センチとかのスケールではなくて、数メートルのスケールだったわけです。これはつまり、地面というのは数センチスケールのような「小さな目」で見ても、数メートルのような「大きな目」で見ても、形としては大体同じようなものが見える、ということです。このような性質を持っているものが「フラクタル」です。

他に有名な例は海岸線です。海岸線も、人工衛星から撮るようなすごい遠くから見た場合でも、1キロぐらいの短いスケールで見た場合でも、同じような形の繰り返しに見えることが知られています。これもまたフラクタルになっているわけです。

 

 

そして、タイトルにもある「樹」もまた、フラクタルであることが知られています。「樹についているたくさんの葉っぱの集まり」と「一枚の葉っぱ」ってほとんど同じ形なんですよ!

 

 

「Studio GP」http://op.tardini.oops.jp/?eid=364778より引用

「Studio GP」より引用

 

では、もう少し人工的な例を見てみましょう。これは「シェルピンスキーの三角形」と呼ばれているものです。もともとは黒い大きな三角形があったところに、次々と三角形の「穴」を開けていって、スカスカにして出来上がるのがこの形です。

 

 

さて、ここで唐突ですが、この図形の「次元」というものを考えてみましょう。次元というのは、僕たちが住んでいるのが三次元だとか、ドラえもんの四次元ポケットとか、美少女は二次元だとか、そういった「次元」のことです。元々の黒い大きな三角形は問題なく二次元です。一つ三角形の穴を開けても、やはり二次元でしょう。しかし、この操作を無限に繰り返していくと、いたるところに三角形の穴が開けられて、黒い部分はほとんどなくなってしまいます。これでも本当に二次元なの?というのはそうするとなんか怪しい気分がしてきます。

そこで、まず「そもそも次元って何よ?」という問題を見ておきましょう。次元の定義の仕方はいろいろあるのですが、今回はそのうちの一つ「ハウスドルフ次元」という定義の仕方を紹介します。やることは簡単で、与えられた図形を円(または球)で完全に覆ってしまうことを考えます。例えば、一次元の図形だったらこんな感じです。

 

この場合は、円を12個使って曲線を覆うことが出来ましたが、ここで使う円の半径を半分にしてみましょう。そうすると、曲線の場合は大体倍の数の円が必要になりますね。では平面を埋めていく場合だったらどうでしょう?円の半径が半分になったら、必要な円の数は大体4倍になりますね。このように、「円の半径を半分にしたときに、覆うのに必要な円の数は何倍になるか」というのが、次元の一つの特徴になっているのです。1次元(曲線)の場合は2倍、2次元(平面)の場合は2�2=4倍です。同様にして、立体を球で覆う場合は2�2�2=8倍の球が必要になるでしょう。これを見れば分かるように、「次元」と「2を何回かけた数だけ円(球)を増やすか」が見事に一致しています。なので、これを「次元の定義」としてあげるのが「ハウスドルフ次元」というものの考え方です。

さて、この定義をフラクタルな図形に使ってあげるとどうなるでしょうか。例えば海岸線の例で見てみましょう。

 

 

すると、円の半径を半分にすると、必要な円の数は倍よりは多くなります。じゃあ4倍いるのかというとそうではなく、2と4の間の数になります。ということは次元は1と2の間ということになってしまいます。整数でない次元、というといかにも奇妙に見えますが、フラクタルな図形はこういうことになるのです。シェルピンスキーの三角形についても次元を計算することは出来て、1.58・・・次元という中途半端な次元になります。

 

そして、この「中途半端な次元」というのが、実は木陰の涼しさの立役者になっているのです。ここで、先程見た「シェルピンスキーの三角形」に、横から光を当ててあげることを考えてみましょう。元々の三角形の一辺は、どれだけ穴を開けても「どれかの黒い三角形の辺」のどれかにくっついているので、まっすぐ入ってきた光は、三角形にぶつかって進むことが出来ません。つまり、シェルピンスキーの三角形は、光はすべてシャットアウトしてくれます。これは、シェルピンスキーの三角形の次元が、辺の次元、つまり1よりも大きいことを反映しています。

では、風が横から吹いてきた場合はどうでしょうか。光と比べた風の特徴は、風は障害物があっても迂回して進むことが出来るということです。このシェルピンスキーの三角形に風が吹き込んできた場合には、これは穴だらけですので、穴を抜けながら風はなめらかに通り抜けていきます。穴だらけで通り抜けられる、というのは、シェルピンスキーの三角形の次元が2よりも小さい、ということを反映しています。

そして、これこそが「木漏れ日の涼しさ」のからくりなのです。最初の方で見たように、樹もまたフラクタル構造をしていて、中途半端な次元を持っています。そのため「光はシャットアウトするけど、風はなめらかに通り抜ける」という魔法のような性質を木陰は獲得して、木漏れ日の中は涼しくなっていたのです。

 

そして、このアイデアを生かした「フラクタル日よけ」というものが存在するのです!

「LOSFEE」http://www.losfee.jp/fs.htmlより引用

「LOSFEE」より引用

 

屋根をフラクタル構造にしてあげることで、木陰と同じ「光は防ぐけど風は通り抜ける」という理想的な環境が実現できています。これは通常のトタン屋根などよりも涼しく、さらにデザイン的にも面白く、グッドデザイン賞をとっています。気になる人は、開発者の人が解説しているページがあるので見てみてください。

 

「フラクタル」や「整数でない次元」のような、一見僕たちの生活とは全然関係なさそうな話が、こんな風に応用されることがあるなんて、サイエンスは面白いですね。それでは今日はこの辺で!

 

 


[1] 生物学的な観点からは、葉っぱの裏側からは水分が放出されている(蒸散)、という点を挙げることが出来るでしょう。また、気化熱も非常に重要です。

画像出典:https://goo.gl/Gw1k6C

シータ 東京大学大学院総合文化研究科 博士課程3年

文化の研究はしてません。やってることは物理です!

@Perfect_Insider

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