物理的な視点から生命現象を見る

2014-11-25

てぃん

Profile

奈良女子大学大学院
人間文化研究科 複合現象科学専攻
冨士 香奈さん

取材日:2014/08/15
編集者:さき

※このインタビューは取材してから1年以上経過しています。情報が古い可能性がありますので、ご注意ください。

研究内容

高校時代、理科の分野選択で物理にするか、それとも生物にするかで悩みました。理科の先生に相談したところ、「物理から生物へ転向することはできるけれど、その逆は難しい」とアドバイスを頂き、結局物理を選択。そして今、生物物理という分野で研究をしています。生物物理とは、物理を用いて生命現象の理解を目指す複合領域です。物理的な視点で生物を見ることが、とても面白いと感じます。

―――冨士さんの研究テーマを高校生向けに説明してください!

私たちの体の中には様々なタンパク質があり、それらが機能を果たすことで生命活動を維持しています。しかし、どのようにしてその機能を果たしているのか、そのメカニズムはまだまだわかっていないことが多いのです。計算機シミュレーションで得られたタンパク質のデータを解析し、タンパク質の動きと機能の関係を調べています。

――― シミュレーション…というと?

周りを水に囲まれた環境の中で時々刻々変化するタンパク質の動きを、物理・化学の理論に基づき計算機上で模倣することです。

――― せっかく博士課程の方のお話を伺えたので、もっと専門的な話も聞いてみたいです!

タンパク質のシミュレーションには、分子動力学法という手法を使っています。分子動力学法とは、全ての原子に対してニュートンの運動方程式を解くことで、時々刻々変化する分子の動きを計算していく方法です。そうして得られたデータから、タンパク質の機能にかかわる動きや構造の情報を抽出します。現在対象としているタンパク質は、黄色ブドウ球菌由来のスタフィロコッカスヌクレアーゼです。SNase(エスナーゼ)とも呼ばれています。SNaseはDNAやRNAを分解する酵素です。生物学的には、それぞれのタンパク質が持つ機能はそのタンパク質の形と関係している、とされています。しかし、SNaseは形だけでなく動きも重要と考えられており、非常に興味深い研究対象です。SNaseのシミュレーションデータから機能に関係のある動きを調べ、そのメカニズムを解明しています。

――― なるほど、それでは学部生時代のことを教えてください

学部生の時は基本的な物理の講義・演習に加えて実験がありました。1年生は毎週基礎物理の実験、2年生ではBASICプログラミングも学びました。3年生になってからはより専門性の高いテーマを1回4週にわたって取り組みました。

――― 印象に残っている学部実験はありますか?

3年生の時に取り組んだ、低温における金属の物性測定実験ですね。組成のわからない金属を液体窒素で低温にしていき、その時の電気抵抗値から測定した金属試料が何かを推定します。真面目にやっていても夜の10時くらいまでかかりました。それもまた楽しかったですけどね。測定が終わったらレポートにまとめる為、誤差の見積もり、グラフの作成、結果の考察をします。そして最後に提出前の口頭試問があります。これがまた大変で、厳しい先生からOKを頂かないとダメでしたから、それなりに頑張っていた記憶があります。

――― 印象に残っている授業はありますか?

学部3年の時に履修した、統計力学の授業です。統計力学はミクロな物理とマクロな物理をつなぐ学問。その授業ではまず初めに、統計物理学の対象となる現象について先生が話してくれました。そこで、ミクロな要素が集まった時に見える普遍的な性質を統計的に記述するという視点が、気体分子の運動だけでなく、人の集団運動や株価の変動、生体分子など、様々なものへ応用できると知り、とても面白いと思いました。その授業の経験と生命現象への興味が、現在の研究室である「非平衡ダイナミクス研究室」(当時は複雑系の物理学研究室)への所属を決めるきっかけになりました。

――― 大学院修士課程に進学するきっかけはありましたか?

大学院の存在を知ったのが大学に入ってからでした。きっかけは特に無く、学部生の頃にだんだんと、もっと物理をやりたくなった感じですね。初めは他の大学の大学院にある生物実験系に進学したのですが、より物理的な視点で研究したいと思い、奈良女子大学大学院を受け直すことにしました。前の大学院をやめて再度大学院入試の勉強をし、同じ年の秋季入試でなんとか無事に入学することができました。それからはいろんな学会や研究会で研究発表する機会をいただき、積極的に参加していました。他所へ行って自分の研究を発表し他の方と議論するうちに、それがとても楽しくなっていきました。特に、研究発表とサマースクールに参加する為に2週間スロベニアに滞在したことは良い経験になっています。また、研究発表の積極性が認められて1年半で早期卒業することができました。

――― 博士課程に行くのは勇気が要りましたか?

修士課程への進学を考えていた時に、博士課程まで進むことは決めていました。修士課程の2年間では研究をするのに少ないだろうと思った為です。将来は研究やそれに関わるようなことができたらいいな、考えています。

――― 一番最初の興味・疑問・夢の対象はなんだったのですか?

物理学の対象としての生命現象に興味を持ってから、筋肉というシステムに疑問を持ちました。筋肉は動かすことで肥大し、動かすことをやめると細くなります。筋肉の肥大は熱力学の第2法則であるエントロピー増大則に反する方向へ向かう現象です。つまり、エントロピー増大則に反する流れが「筋肉を動かす」ことで引き起こされているように思ったんです。そこで、筋肉の元であるタンパク質を研究対象にしたいと考え、今の研究室を選びました。タンパク質の機能と運動のつながりを見つけられたら、自分の疑問にもより迫ることができるのではないか、と思っています。

――― 女子大という環境はどんな印象ですか?

高校までは共学だったので、入学当初は女の子ばかりの環境に対してかなり警戒していました。でも話をすると気の合う子が多く、すぐに楽しめるようになりましたね。皆意外と気さくです。また、いろんな地方から学生が集まっているのも新鮮に感じました。県外から通う人がほとんどで、近畿圏内の人もクラスの半分くらいだったと思います。

――― 女子大の理系だと、学会に行った時に男子の圧倒的多さにびっくりしませんでしたか?

そうですね。修士2年生の夏に初めてサマースクールに参加した時に、物理系大学院生の男女比に驚きました。女子は参加者全体の1割以下だったので。その時は、これがグローバルスタンダードなのか、と思いました(笑)物理専攻の学生が全員女子という環境はかなり特殊ですね。

理系に進んだ理由

小学生の時から特に理科が好きでした。昔よく親に海や山に連れて行ってもらって、自然と親しむのが好きだったからだと思います。また算数・数学も好きでしたので、好きなものを突き詰めていく為に高校で理系を選択しました。

受験時代

現役の時は別の公立大学を志望していましたが、落ちてしまい浪人することにしました。次の年も同じ大学に再挑戦したのですがとどかず、後期試験で受けた奈良女子大学になんとか合格することができました。

――― 受験科目ごとに勉強の工夫はされていましたか?

特に工夫はしていないのですが、苦手な科目はできる限り自分が面白いと思える部分を探そうとしていました。私は社会科目に対する苦手意識が特に強かったのですが、倫理だけは好きでした。高校時の倫理の先生の授業が独特で楽しかったからです(笑)また、過去の人の自然・社会に対する考え方やその遍歴は面白く、興味を持って勉強を続けられました。一冊決まった参考書を毎晩読み、センター試験の過去問を解いていました。国語も苦手でした。特に現代文が苦手でしたね。しかしこちらも幸運なことに良い先生に恵まれ、ロジカルに文章を読む読み方を学ばせていただいてからは、問題を解くのが楽しくなったと思います。後はひたすらセンター試験問題を解いて復習を繰り返していました。英語も中学の頃から苦手だったので苦労しました。浪人時も一番伸びが悪かったです。取り組みやすい得意な科目から勉強をしていたこともあって、後回しになりがちだったとも思います。英語を勉強するツールは参考書以外にもたくさんあるので、テレビとかネットなどを上手くつかえばよかったかもしれないですね。今は海外の研究者の方と話す機会や英語での発表の機会があるので、相手に伝える為の英語を楽しんでいます。理系科目は二次試験でも必要なので、参考書に加えて添削をしてくれる通信教材も使って勉強していました。センター試験での理科二科目は物理・化学を選択しました。当時の奈良女子大学の後期試験は物理一科目のみでしたので、得意な科目のみで受験できたことがよかったです。

――― 現役と浪人での違いはありましたか?

現役時は部活を夏前までの引退まで続けていたので、それからぼちぼち勉強し始めるといった感じでした。浪人時は予備校には行かなかったので、図書館に通って勉強していましたね。できる限りモチベーションを保てるように、他に浪人した友達とたまに会って励ましあってました。高校の担任の先生から、「お前やったら浪人すれば国公立にいける」と言っていただいたのを真に受けて頑張っていたところもあったと思います。乗せられやすいタイプなので(笑)

キャンパスライフ

――― サークル活動はされていましたか?

学部時代にハンドボールをやっていました。高校の時もハンドボール部で毎日キツイ練習をしていたのですが、奈良女子大学のハンドボール部は楽しく競技することに重点を置いていたので気楽に続けることができました。ただ、先輩が引退されて私が部長をすることになってからは大変に思うこともありました。部を仕切ることの難しさというか、先輩方はすごかったなぁ、とか思ったり(笑)でもその経験のおかげで視野を広く持つことの大切さを学べたと思います。

――― アルバイトはしていますか?

小中学生向けの理科実験教室のアルバイトをしていました。学部1年の12月頃から修士2年の4月頃まで。今は研究に時間を多く割けるようにバイトはしていませんが、週に1度、別の大学で非常勤講師をしています。内容は主に、基礎科目の物理学実験やシミュレーションの演習のサポート役です。

てぃん 理系コミュニティ理系+

情報系の学部4年生。理系コミュニティ理系+にてwebエンジニアとして活動中。趣味は映画鑑賞、パン屋さんめぐり、ミュージカル鑑賞。

@snoopypoint

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