落語「花見酒」と経済学

2015-07-20

意識の高い学士

こんにちは!高野です。初めて"理系Plus"にコラムを投稿します。

まず簡単に自己紹介をしておくと、実は僕の出身は商学部。ビジネスやマーケティングを勉強するところで、もろに文系と言われる領域の学部です。それがなぜ今回、理系プラスというサイトにコラムを投稿しようかと思ったかというと・・・「理系」という言葉への挑戦をしてみたかったからです。

「理系」とは何か。翻って「文系」とは何か。僕は長い間、「理科と数学=理系」「国語と英語と社会=文系」だと思っていました。しかし大学に入ってから様々なことを勉強してみると、必ずしもそういう区分は正しくないのではないか、というよりも学問の分野を文系とか理系とかいう分け方で区分することはできないのではないかと思い始めました。それならば、文系(と言われている分野の)立場にいる僕も、理系(という言葉にイメージされる)内容を書くことができるのではないか。そういった、文系と理系の壁をぶち壊すという意味で、「文系専攻の理系コラム」を書いてみようと思い立ったのが投稿のキッカケです。
ひとまず今回は、文系と理系の中間に限りなく近いと言われる経済学の分野から、「数学×社会科学×文学」とでも呼べそうなコラムを寄稿いたします。

さて、今回取り上げる題材は落語です。皆さん、「花見酒」というお話はご存知でしょうか。

あるところに酒好きの男が2人いた。花見の季節に、ふと酒を飲みたいと思ったがお金が無い。そこで酒屋の番頭に無理を言い、三升の酒を借りて花見の場所へ行く。そこで花見の客に酒を売り、儲けた金で改めて一杯やろうという話になった。
2人で樽を担いで歩いていると、どうも酒の匂いにやられて一杯飲みたくなってしまう。ついに一方が我慢しきれず、懐から10銭を取り出してもう一方に支払い、グビリと一杯いく。するともう一方もたまらなくなって、もらったばかりの10銭を相方に手渡して、またグビリといく。それを繰り返しているうちに、酒樽の中身は空っぽになってしまったとさ。

一方の持っていた10銭が2人の間を行き来していたうちに、三升の酒が全て「売り切れてしまった」。完売した後に商人の懐に残ったお金はたった10銭だった、という興味深いお話です。

さて、この話の興味深いところは次の点です。

・2人の間を行き来した実在のお金は、最初から最後まで通して10銭しか無かったこと。
・しかし当初、仕入れたはずの三升、つまり5,400mlのお酒は、1,000銭ほど無ければ買えないはずであること。
・なぜ実在のお金は10銭しか無いにも拘わらず、その100倍もの商品が全て「買われて」しまったのか?

もちろん、誰にでも直感的に理由は分かります。お金が商品と交換された後、そのお金を受け取った人は、また別の商品と交換でそのお金を誰かに支払います。それを受け取った人は、また別の商品を買うため別の人に支払い・・・これを繰り返すうちに、全体で見ると実体的なお金の量を大きく超えた量の商品が取引されることになります。

この「直観的な常識」を美しい恒等式で表したのが「フィッシャーの交換方程式」です。

フィッシャーの交換方程式 MV=PT
※M: 実在するお金の量、 V: 取引の回数、 P: 商品の価格、 T: 取引された商品の量

「花見酒」の例で言えば、「実在するお金の量(10銭)×取引回数(100回)=商品の価格(10銭/54ml)×取引された商品の量(5,400ml)」という恒等式が成立します。

この式が何の役に立つの?と思われる方もいるかもしれませんが、実は経済の不調を解決する策を考える際に大活躍するんです。
この式を提唱した経済学者アーヴィング・フィッシャー(1867-1947)は、取引の回数(V)と取引量(T)は基本的に変動しづらい要素であると考え、「経済政策で物価(P)を上げたければ実在するお金の量(M)を上げれば良い」と主張しました。この考え方は貨幣数量説と呼ばれ、アベノミクス第一の矢「大胆な金融緩和」を支える理論へと繋がっています。
また、同時代の経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1945)はフィッシャーと異なり、取引回数(V)と商品の価格(P)の方が変わりにくい要素であると考え、実在するお金の量(V)を上げることで取引される商品の量(T)を増やすことができる、と主張しました。この考え方は彼の弟子たちに受け継がれ、現在のアベノミクス第二の矢「機動的な財政政策」を支える理論へと繋がっています。

貨幣数量説だアベノミクスだと言われると理解が難しく思えますが、その背景には落語「花見酒」の世界に表されているような経済観があります。その世界観に落とし込んで考えると、彼らが持っている貨幣の量がもし増えた場合、或いは3人目の酒の買い手が現れた場合、「花見酒」の世界の経済はどのように動いたか。そのような視点を導入することで、もし少しでも経済の姿に身近さを感じていただければ、或いは「理系に最も近い文系分野」と言われる経済学に興味を持っていただけたらとても嬉しいです。

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