ニュートリノ検定:解答編

2015-10-11

毒田 弦三

おまたせいたしました。先日の記事:ニュートリノ検定(非公式)の解答編です。

 

 

ニュートリノに関する25個の記述のそれぞれについて、

・正しい記述か、間違った記述かをか�で記しています。

・間違っている箇所に横線を引いています。

・正しい記述を横線で消した後のカッコ内に記しています。

 

それではさっそく答えあわせをはじめていきましょう。

 

 

 

 

 

 

<基礎知識編>

1�・ニュートリノの存在を予言したのはヴォルフガング・パウリである。彼はこの業績によってノーベル賞を受賞した(ノーベル賞を受賞したわけではない)。

ヴォルフガング・パウリはノーベル賞受賞者で、ニュートリノの存在を予言しました。しかし、彼のノーベル賞の受賞理由は「パウリの排他原理」と呼ばれる法則を発見した事で、ニュートリノの予言に対してではありません。したがって、2つ目の文章の所に横線が引かれていて、受賞理由がニュートリノの予言ではないと解答されていればこの問題は正解とします。なおニュートリノの存在の予言は、論文という形で発表されたのではなく、彼が科学者仲間に送った書簡の中とされています。この書簡の書き出しは「親愛なるRadioactiveな紳士淑女の皆様」となっており、洒落のききかたともあいまって非常に有名です。

 

2�・ニュートリノという名前の名付け親は、ロバート・オッペンハイマー(エンリコ・フェルミ)である。

ニュートリノという名前の名付け親は、エンリコ・フェルミです。彼はイタリア出身の物理学者で、理論・実験の両方において多大な業績を残しました。ニュートリノという名前は、電気的に中性(ニュートラル)で小さい粒子という意味です。日本語では「中性微子」と訳されます。彼はベータ崩壊の理論を構築する中でニュートリノという名前を導入しました。

 

3�・ニュートリノの存在を実験で確認したのは、フレデリック・ライネスとクライド・カワンである。彼らが検出したのは原子爆弾(原子炉)からのニュートリノである。

最初のニュートリノの検出はフレデリック・ライネスクライド・カワンによる原子炉ニュートリノの検出です。

 

4�・ニュートリノは不安定原子核がアルファ崩壊(アルファ壊変)(ベータ崩壊(ベータ壊変))する際に放出される。

ニュートリノは弱い相互作用によって起こるベータ崩壊にともない放出されます。アルファ崩壊ではニュートリノは出ません。

 

・太陽内で生じる核融合反応でニュートリノが放出される。

この記述は正しいです。太陽では核融合反応によって熱や光が生み出されています。この反応の過程でニュートリノ(太陽ニュートリノ)が放出されます。地表における太陽ニュートリノの量は、毎秒1平方cmあたり約700億個と言われています。

 

・ニュートリノにはわずかながら質量がある。

この記述は正しいです。ニュートリノに質量があることは、ニュートリノ振動現象によって裏付けられました。

 

7�・小林誠と益川敏英は、ニュートリノが3種類(クォークが3世代)あると予言した。

小林・益川理論では、クォークが少なくとも3世代(6種類)あることを予言しました。しかし、レプトンの世代数が3つだということまで言及してはいません。

 

<専門用語編>

8�・ニュートリノは「クォーク(レプトン)」と呼ばれる粒子のグループの一員である。

ニュートリノは素粒子標準模型(標準理論)の枠組みの中で「レプトン」というグループに属します。

 

9�・ニュートリノはスピン1(1/2)を持つフェルミオンである。

ニュートリノのスピンは1/2です。すなわち、ニュートリノは換算プランク定数の1/2倍の角運動量を持っています。このように2分の何とかという「半整数値」のスピンをもつ粒子はフェルミオンと呼ばれます。いっぽうスピンが0や1のように整数値を持つ粒子をボソンと言い、フェルミオンと異なる性質を持っています。

 

10・すべてのニュートリノはヘリシティが左巻きと考えられている。つまり進行方向に対してスピンの向きが反対向きである。

この記述は正しいです。今の所、右巻きニュートリノは実験的に確認されていません。

 

11�・ニュートリノがパイ中間子(Wボソン)を媒介に荷電カレント反応をすると、ニュートリノは対となる荷電レプトンに変化する。

パイ中間子は陽子や中性子の間に働く核力を媒介する粒子です。弱い相互作用を媒介するのはWボソンとZボソンといったウィークボソンと呼ばれる粒子です。ニュートリノがWボソンを媒介にして運動量と電荷を他の粒子に渡すと、ニュートリノは対になる荷電レプトン:電子、ミュー粒子、タウ粒子のいずれかに変化します。この時にどの荷電レプトンになるのかという性質を、ニュートリノの「フレーバー」と言います。

 

12�・ニュートリノ振動とは、量子力学的な干渉効果によって、銀河系内のニュートリノの存在密度(ニュートリノのフレーバー)が周期的に変化する現象である。

ニュートリノ振動とはニュートリノのフレーバーが周期的に変化する現象です。ある時点で「ミューニュートリノ」だったものが、量子力学的な干渉効果によって「電子ニュートリノ」や「タウニュートリノ」に変化することがありえます。ニュートリノ振動の有無は太陽ニュートリノの観測以来、様々なニュートリノ研究を横断する大きなテーマとなっていました。そしてつい最近、2010年代に実験的にその存在が確立されました。

 

13・ニュートリノのフレーバー固有状態と質量固有状態の混合は、PMNS行列と呼ばれる行列で表現される。

この記述は正しいです。PMNSとは、ニュートリノ振動を定式化した4人の科学者:ポンテコルボ中川坂田の頭文字にちなんでいます。先ほどニュートリノには3つのフレーバー(電子、ミュー、タウ)があると言いました。その一方で、ニュートリノの質量もまた3種類があります。実は、3種類のフレーバーと3種類の質量は、1対1で対応しているわけではありません。つまり「電子ニュートリノの質量はm1で、ミューニュートリノの質量はm2で、タウニュートリノの質量はm3です」という風にはなっておらず、「電子ニュートリノは質量m1、m2、m3のニュートリノが量子力学的にある割合で混じっています」という風になっています。この対応を表現したのがPMNS行列です。そしてこの混合によってニュートリノ振動が発生します。

 

14・ニュートリノがマヨラナ粒子であるなら、ニュートリノレス二重ベータ崩壊が発生する可能性がある。

この記述は正しいです。現在も世界では、ニュートリノレス二重ベータ崩壊(0νββ)を検出すべく、いくつもの実験が行われています。

 

15・弱い相互作用すらしない未知のニュートリノが存在するかもしれない。この仮説上のニュートリノは、「傍観者」という意味のスペクテイター(「不毛な」「実がならない」という意味のステライル)・ニュートリノと言う。

現在でもニュートリノの性質には不可解なものがあります。そうした不可解な現象を説明するうえでステライル・ニュートリノという未知のニュートリノの存在を提唱する人もいます。

 

16�・地表付近を飛び交うニュートリノのうち、最も数が多いのは、二次宇宙線由来のニュートリノ(大気ニュートリノ)である(宇宙背景ニュートリノであると考えられる)。

地表を飛び交うニュートリノ源は様々ですが、 最も多いのはビッグバンの直後に作られた宇宙背景ニュートリノ(宇宙ニュートリノ背景)であると考えられています。このニュートリノはエネルギーが極めて低く、実験的に検出に成功したという報告はまだありません。なお次に多いのは太陽ニュートリノです。https://icecube.wisc.edu/masterclass/neutrinos

 

<実験編>

17�・カミオカンデはニュートリノ-電子の散乱で発生するシンチレーション光(チェレンコフ光)をとらえる検出器である。

カミオカンデは水中で発生したチェレンコフ光をとらえます。現在は後継機であるスーパーカミオカンデ(SK)が稼動中です。

 

18�・カミオカンデの跡地に建設された検出器、カムランドは、液体アルゴン(液体シンチレータ)を用いて反電子ニュートリノを検出する。

液体シンチレータとは、シンチレーション光を発するオイルのことです。カムランドは純化された液体シンチレータと光電子増倍管によって反電子ニュートリノの信号を捕らえます。低エネルギーの反電子ニュートリノに対する感度が非常に優れています。なお、液体アルゴンを使ったニュートリノ検出器も実際にあります。

 

19�・ニュートリノ研究を行う海外の地下施設として、アメリカのスーダン、スイス(イタリア)のグランサッソ、カナダのサドベリーが挙げられる。

ニュートリノ観測は宇宙線による邪魔な信号を避けるために地下で行われることがあります。日本では神岡鉱山が有名です。海外ではアメリカのスーダン、イタリアのグランサッソ、カナダのサドベリーが有名です。

 

20�・原子炉から放出される反電子ニュートリノのエネルギーは、最大50MeV(8~10MeV)程度である。

原子炉から放出される反電子ニュートリノのエネルギーとして50MeVというエネルギーは高すぎます。最大はせいぜい8から10MeV程度で、観測可能なエネルギーの平均は4MeV程度です。したがって、50MeVの所に横線が引かれていて、およそ10MeVと解答されていればこの問題は正解とします。(10月11日11時訂正)。http://inspirehep.net/record/923967/plots

 

21・2011年にニュートリノの超光速性を示す実験結果が発表されたが撤回された。これはニュートリノ生成地点と測定地点の時計の同期に不備が認められたためである。

この記述は正しいです。ニュートリノ生成地点と測定地点の時計は、GPS衛星からの電波によって同期させますが、のちにこの同期システムに不備が認められました。具体的には、GPSアンテナから地下にある実験場まで時刻の信号を送る光ファイバーの接続部が緩んでおり信号が遅延したこと、また時刻同期の間隔が設計されていた設定と違っていたことの2点です。再調整の結果、ニュートリノの速さは光速と変わりがないという結果となりました。Measurement of the neutrino velocity with the OPERA detector in the CNGS beam

 

22�・加速器ニュートリノの生成量を表す指標として、標的に何クーロン分の電子を照射したかという数値、「ルミノシティ」(何個の陽子を標的に照射したかという数値、「Proton On Target」)が使われる。

加速器ニュートリノは、陽子を加速し、標的に当て、パイ中間子やK中間子を生成し、それを崩壊させ生成します。そこで加速器ニュートリノの生成量を表す指標として、標的に何個の陽子を照射したかという「Proton On Target」が用いられます。例えば茨城県東海村から岐阜県神岡まで加速器ニュートリノを照射する実験「T2K」では、2015年3月26日に、POTが10^21に達しました。J-PARCでT2K実験が 1�10^21 POT を達成

 

23�・天然の岩塩鉱床や南極の氷から発せられる電波を観測することで超高エネルギーニュートリノ反応を検出する試みがある。電波はエフィモフ効果(アスカラヤン効果)と呼ばれる干渉効果によって観測可能な強度になる。

1つ目の文章は正しいのですが、そのメカニズムの名称はアスカラヤン効果と言います。

 

24�・ニュートリノと原子核の反応断面積は、ニュートリノのエネルギーによらず一定である(ニュートリノのエネルギー、原子核の構造などによって変わる)。

ニュートリノの反応断面積(反応のしやすさをあらわす量)は、ニュートリノのエネルギーに比例します。つまり低エネルギーのニュートリノになればなるほど、物質と相互作用しません。またニュートリノの反応断面積は原子核の種類、構造によっても変わります。とにかく「一定ではない」という解答であれば正解とします。

 

25・地熱の源の約半分は、地球内部の放射性物質の崩壊によるものである。この事実は地球内部から発せられる反ニュートリノの測定により裏付けられた。

この記述は正しいです。これまで、隕石に含まれる放射性物質の量などから推定すると、地熱の源の約半分が地球内部の放射性物質の崩壊によるものと考えられてきました。カムランドによる地球ニュートリノの測定で、その見積もりが正しいと裏付けられました。地球反ニュートリノの研究

 

 

おわりに

いかがだったでしょうか?この検定は現在のニュートリノ研究を広い範囲で網羅したつもりですので、分からなかった単語や間違えた箇所をよく復習すればあなたもニュートリノマニアになれます。がんばってください。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

ニュートリノに関する書籍

鈴木厚人 ニュートリノでわかる宇宙・素粒子の謎 (集英社新書)
小柴昌俊 ニュートリノ天体物理学入門―知られざる宇宙の姿を透視する (ブルーバックス)

画像出典:https://goo.gl/aGnkWQ

毒田 弦三 博士研究員(自称実験屋)

ぶすだげんぞう。素粒子原子核宇宙物理の実験を専門とするポスドク研究員です。

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